僕はラノベ主人公になれない
またはアニメでも、エロゲーでも、マンガでもいい。
それは虚構の世界。
ある日不思議な力に目覚めたり、ヒロインとの運命的な出会いを果たしたり、女の子に囲まれてキャッキャうふふしたりする、親愛なる友人たちが描き出した世界。
その世界との邂逅が意味するものは、人によって違うのかもしれない。
時に羨み、時に憧れ、時に否定される。
それを一言で表すのであれば、それはきっと「夢」。
Otaku Dream
そんな世界に触れたオタクたちは口々に言うのだ。
「現実の妹は悲惨だ」「こんな女いるわけがない」「○○ちゃんさえいれば俺だって」「女は二次元に限る」「こんなの現実じゃありえない」
そういって夢をあきらめてしまう。
そういって現実と向き合う振りをして、大人になったつもりで夢から目を背けてしまうのだ。
だから僕たちはラノベ主人公になれない。
日常に潜むヒロインに気付かず、フラグを回収できず、退屈な日常を過ごしてバッドエンドを迎えるのだ。
僕がそれに気づいたのは高校を卒業した後、大学の入学式を控えた春休みのことであった。
人生にはリセットボタンも周回プレイも存在しない。
物語の主人公になりたければ日常に目を凝らし、不意に訪れた選択肢を吟味し、後悔しないものを逃さず選び取っていかなければならない。
今回は僕がそれに気づくよりも前、バッドエンドを迎えた僕が、バッドエンドを迎えたが故に気付くことができた人生の分岐点、回収することのできなかった「フラグ」について語っていこうと思う。
強がりの嘘と廃部の危機
ピカピカの高校一年生の頃の話である。
地元から離れた高校に進学した僕はクラスに全く知り合いがおらず、回りがぼちぼち仲良くなりはじめた五月になっても、うまくクラスに馴染めずにいた。
そんなある日、帰りのホームルーム終了後、一人の女子が僕に話しかけてきた。
「二木くんって放課後暇だったりする?」
「……いや、超忙しい」
「あっ……、そっかごめんね」
嘘だった。
全く持って暇だった。
部活にも入っていなかったし、ろくに友達もいなかったし、塾やらなんやらといった習い事もなかったし、まったくもって暇だった。
ただなんとなく、「暇人に見られたらいやだなぁ」と思ったがゆえに、全く不毛な嘘をつき、クラスに馴染めずにいた僕に話しかけてくれた女の子を追い払ってしまった。
ああああああああああああああああああああああああああ!!!
後になってしったことだが、彼女が入部した吹奏楽部は部員が少なく、コンクールやらなんやらに参加するための人数すら足りない状態であったらしい。そこで彼女は新一年生であるにもかかわらず部員勧誘をしていたということらしかった。
僕自身、音楽は嫌いじゃないし、どこか部活には入りたいとは思っていたし、ほんと願ってもない話だった。
しかも、誘ってくれたのは女の子だし、吹奏楽部員はほぼ女子である。
もしその時入部してたらさぁ、僕の人生違ったかもしれないじゃん????
はぁ……。
結局のその吹奏楽部は僕が二年生だかの時につぶれてしまってどこかほかの楽器系の部活と合併した。
僕がラノベ主人公だったならば彼の吹奏楽部を廃部の危機から救い、誘ってくれた女の子ないし吹奏楽部員とのドタバタラブコメディを紡いでいたに違いない(気持ち悪い)。
猫と少女
その日僕は寝坊した。
つまらない理由で夜をふかし、朝起きるのが遅れ、家を出るのが遅れ、電車に乗るのが遅れ、どうあがいても一限に間に合わない状況に陥っていた。
そんな状況下で高校生がとる行動は主に三つあると思う。
1 急いで学校に行く
2 いっそのことサボる
3 二限の時間に合わせてつくようにゆっくり学校に行く
真面目な生徒ならば 1 だろう。
不真面目な生徒ならば 2 だろう。
普通の高校生ならば 3 が板。
当然3を選んだ僕は学校の最寄り駅で電車を降りた後、自販機で缶コーヒーを買い、ホームで一息、二息ほどついてから学校へとむかった。
学校へはゆっくり歩いて20分くらい。中途半端に田舎な高校はそのくらいの距離が多い。
だらだら歩きながら時計を見るとこのままだと少し早くつきそうだな、という時間だった。
授業中の教室に遅れて入っていくのは癪なので、僕は少し散歩でもしようと思い、いつもは通らない遠回りの道を使って学校に行くことにした。
その道には公園があった。
すべり台とブランコやシーソーといった遊具があるエリアと、小学生が野球やサッカーをするような空き地が半々になっているような、住宅街の真ん中にある少し大きめな公園だ。
平日の朝10時前、普通なら公園に人がいる時間ではない。
しかしそこには少女がいた。
公園の端、植え込みのそばに少女がいた。
僕と同じ高校の制服を身にまとった少女は、しゃがみながら猫を撫でてており、近くのベンチには彼女のものらしい鞄が置いてあった。
僕は足を止め、少女に死角になるよう公園に植えられた木々に身を隠しながら彼女の様子をうかがった。
おいおい、こんな時間にこんなところで何やってるんだ?
完全に遅刻じゃねーか、猫と遊んでる場合じゃないだろ。
自分のことなど棚に上げて僕は考えた。
っていうか誰だろう。知ってる人かな?
顔は影になっててよく見えない。
うちの高校なのは間違いないけど先輩? それとも後輩?
てかこれ運命じゃね?
たまたま遅刻して、適当に時間つぶして、たまたまいつもは通らない道を通ったらそこで女の子と出会うなんて、運命じゃね?
痛々しいヲタクの妄想である。
ちょっと声かけてみようかな?
「なにしてるんですか?」なんてのは流石に面白みがないか。
というか、いきなり話しかけるとか危ない人では?
でも同じ学校だしセーフなきもする
てかなんのために話しかけるの?
興味があるから
興味? なにそれキモ。
そんなことを考えながら彼女を眺めていると、彼女のなでていた猫が突然藪の中へ飛び込んでいった。
僕は本能的に見つかったら不味いと思い、息を殺して身をかがめた。
彼女は少しの間だけ猫の消えた藪を見つめたのちに、鞄をもって学校へと歩いて行った。
僕は暫くぼーっとした後、さっきまで彼女と猫がいた場所まで行って、一つため息をついてから登校を再開した。
学校についたのは二限開始ぎりぎりの時間になった。
当然のことながら、彼女が誰だったのかとか、なにをしていたとかそういうことはわからずじまいで、その時もし僕に一歩踏み出して彼女に声をかける勇気があったなら、僕の高校生活は別ルートに入ったかもしれない(オタク脳)。
臆病者のバレンタイン
これは中学時代の話になる。
バレンタインとは女性が男性にチョコレートを贈るという例のあれだ。
当時の僕はチョコレートなど貰ったことがなく、「隣りのクラスのAちゃんがY君に告白したらしいよー!」とかいう話を鼻くそほじりながら聞くだけの一日である。
踏み込んで語ることがあるとするならば、小学校三年生の時に片思いしてたTちゃんから「H君にチョコレートを渡すからちょっと協力してほしい」などと頼まれて静かに失恋をした程度の思い出しかなかった。
その年のバレンタインは平日で登校日だった。
朝からクラスが、いや学校中が桃色にのろけていて僕は嫌気がさしていた。
どうせチョコレートなんかもらえないし、みんなそわそわしてて気味が悪いし、あーもう俺は色恋沙汰とは無縁なんだ、騒ぎたい奴だけ勝手に騒いでくれと言う感じで過ごし、休み時間は机に突っ伏していたのだが、
突然何者かに腕を引っ張られた。
「きて」
とほとんど話したことのない女子が僕の腕を引く。
え??? あれ、え????????
僕は訳も分からず連行され、一人の女子の机の前で解放された。
僕の正面に一人の女子が立っており、その隣に僕を連行した女子、さらに僕たち三人を囲むように複数人の女子が立ち並んでいた。
怖かったし恥ずかしかった。
僕はこれから執り行われることを察知し顔から火でそうなくらい赤面したのを覚えている。
目の前の女子が口を開こうとしたところで僕は叫んでしまった。
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
僕たちを包囲していた女子の壁をぶち抜き教室から失踪した。
失踪は僕の特技である。
実をいうとその日の記憶はあまりはっきりとは残っていない。
昼休みに僕を連行した女子に
「○○は君のためにチョコを作って君のために手紙まで書いたんだよ。逃げ出すなんて最低だよ」
と罵声を浴びせられたことと、帰りのホームルームで鞄をあけると綺麗に包装されたチョコレートが入っていたことは覚えている。
手紙は入っていなかった。
端的に言って僕は最低だった。
彼女のチョコの渡し方もどうかと思うが、それ以上に僕の対応は不誠実であったのは間違いない。
それから数年間僕は女性とバレンタインが苦手になった。
女性は今も苦手かもしれない。
河原
高校三年生、受験をまじかに控えた12月。
当時の僕は週に2日程度のペースで学校をサボっていました。
朝起きて、朝食を食べて、制服に着替え、母親の作った弁当をもって、「いってきます」と言って家を出ます。
自転車で駅まで行って、そこで僕の登校はおわり。
学校とは反対方向の電車に乗って町へ行くか、駅周りの喫茶店に入るか、図書館に行くかそんな感じの何の目的もないさぼりです。
「人生なにごとも経験さ。学校をサボる奴の気持ちが知りたかったんだ」
友人にはそんなふうに話していた気がします。
その日は駅に自転車を置いて散歩をしてました。
駅の近くには春には地元の花見スポットっとしてにぎわうのどかな小川があり、僕はその河原をぼーっと歩いていました。
しばらく歩いていると、河原にで寝ている学ランの男がいました。
平日の真昼間、12月の河原に、学ランで横になっている男がいるのです。
一体この男はなにをしているんだ。
当然の疑問です。
一体僕はなにをしているんだ。
これまた当然の疑問です。
受験期の高校生が学校にも行かず勉強もせずにふらふらしているなんておかしな話です。
僕は河原で寝ている男子高校生を眺めながら自分がしていることのおかしさに気が付きました。
結局僕はその男の前を素通りし、近くにあった喫茶店で少しだけ勉強した後、午後から学校に行きました。
その後、いくつかの大学を受験して、無事いくつかの大学に合格し、実家を出てみたいという思いで遠くの大学へと進学を決め、普通に高校を卒業しました。
なんの面白みもない話です。
ここまででなにが言いたかったのかといえば、僕はこれまでの面白そうな出会いをすべて不意にしてきたということです。
今回書いた以外にもにたような後悔はいくらでもありますし、僕自身が覚えていないも多くあると思います。
高校卒業後の春休み。
僕の人生がライトノベルのように、あの夢の世界のように動き出さなかったのは全て主人公になれなかった僕の責任なのだということを痛感しました。
僕はラノベ主人公にはなれない
大学生。
高校卒業後の春休みに自分のこれまでの人生にうんざりした僕は、
「もうこんなさみしいエンド(卒業)は迎えたくない!」
「大学生活こそは僕の物語を紡いで見せる!」
そんな一心で目の前にあるフラグを必死で回収しました。
その結果
メンヘラかなーやっぱw
自分では思わないんだけど「ずっと一緒にいようね」ってよく言われるwww
こないだガチレズに絡まれた時も気が付いたらツイ垢特定されてたし学校から帰ったら女が血だらけで倒れたしwww
ちなみに元カノは解離性同一性障害(聞いてないw)
僕はラノベ主人公にはなれなかった。